• 準備力
2017/05/17

肌は第三の脳である【肌からストレスオフを考える①】

身体心理学を知っていますか? 脳が身体を支配するだけではなく、肌や筋肉、腸など身体も脳に影響することがわかっている今。身体から心(脳)を追求する学問として注目を集めています。
連載「肌からストレスオフを考える」も、まさに身体心理学の視点です。愛情ホルモンのオキシトシンやスキンシップについて研究する桜美林大学・山口創先生にお話をうかがいます。

■肌と脳は双子の関係?「三層性胚盤」の神秘

近年の腸ブームで腸は「第二の脳」という呼び名で知られるようになりましたが、さらに「第三の脳」と呼ばれる器官があるのをご存知でしょうか。それが肌です。その理由をお話しましょう。

人間の生命は、たった1個の受精卵から始まります。そして細胞分裂を繰り返して身体が形作られるまでの「胚(はい)」の時期に、3層の構造をしている時期があります。これを三層性胚盤といいます。その最も内側にある内胚葉からできるのが内臓、その外側の中胚葉からできるのが筋肉と骨。そして最も外側の外胚葉からできるのが、肌と脳なのです。

ルーツが同じわけですから、互いに相似的な関係があるといえます。肌は脳からの指令に従うだけではなく、脳がなくても独立して活動したり、逆に肌から脳に対しても影響を与える可能性があるのです。

<三層性胚盤>



■およそ20億年、生物は脳なくして存在していた!

まずは肌が脳から独立して活動している点を紹介しましょう。
30億年にもなる生物の進化の過程において、“脳らしき器官”ができるのは、およそ10億年前であると言われています[1]。20億年は脳なしで存在していたわけですから、実は生物は脳がなくても生きていくのに問題はなく、そればかりか現在でも脳がない生物は地球上にはたくさん棲んでいます。

脳は効率的に外界の情報を処理するように進化しましたが、では脳がない生物は何が情報処理を担当しているのでしょう。それは「細胞膜」など、外界と接する部分です。もちろん人間には脳がありますが、一方で細胞膜に該当する器官も備えています。それが、自己と環境との境界である「肌」なのです。

脳のないゾウリムシやアメーバなどの単細胞生物は、細胞膜が外界にあるものに接すると細胞膜内と膜上のカルシウムイオン濃度に差が生まれます。するとゾウリムシではその変化によって膜上にある細かい毛(鞭毛)の向きを変えることで自らの進む方向を変えます。

ヒトの肌でも同じことが起きています。例えば皮膚の最上部の角質層が壊されると、その部分のカルシウムイオン濃度が低下し、その情報が深部の表皮細胞に伝わります[2]。するとヒトの場合は、脳からの指令なくして表皮細胞の分裂が早まり、傷が修復されるのです。


■ストレスホルモンは表皮細胞ケラチノサイトでも合成。肌のケアでストレスオフ

次に、肌が脳に与える影響について見ていきます。
最先端の肌の研究によると、肌の表皮を構成する表皮細胞のケラチノサイトは、これまで脳や体の神経だけで作られ機能していると考えられていたさまざまなホルモンを合成していることがわかっています。

例えば、痛みを抑制したり快感を生み出すβエンドルフィン[3]や、痛みを伝達するサブスタンスP[4]などの神経伝達物質を合成していることがわかっており、ケラチノサイトから脳に入ることで、脳に影響を与える可能性が考えられます。

またケラチノサイトでは、ストレスを受けて作られるACTH[5](副腎皮質刺激ホルモン)や、「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾール[6]も合成されます。ですから、ケラチノサイトを良好な状態にする=肌をケアすることが、ストレス物質の抑制に。心身のストレスオフに役立つといえるのです。




(引用)

[1] 春木豊・山口創(編著) (2015) 新版 身体心理学 川島書店
[2] 傳田光洋 (2011) 表皮機能におけるカルシウムの役割 数理解析研究所講究録, 1748, 134-140.
[3] Zanello,S. et al. (1999) An immunocytochemical approach to the study of β-endorphin production in human keratinocytes using confocal microscopy. Annals of the New York Academy of Sciences, DOI: 10.1111/j.1749-6632.1999.tb08667.
[4] Bae,S. et al. (1999) Autocrine induction of substance P mRNA and peptide in cultured normal human keratinocytes. Biochemical and Biophysical Research Communications 263, 327–333.
[5] Rousseau, K. et al. (2007) Proopiomelanocortin (POMC), the ACTH/melanocortin precursor is secreted by human epidermal keratinocytes and melanocytes and stimulates melanogenesis. FASEB J. 21(8): 1844–1856.
[6] Vukelic,S. et al. (2011) Cortisol synthesis in epidermis is induced by IL-1 and tissue injury. The American Society for Biochemistry and Molecular Biology. 286, 10265–10275.



執筆・監修:山口創

関連キーワード