• 準備力
2017/06/15

「触れる」で分泌を促す。ストレスを緩和するオキシトシン【肌からストレスオフを考える②】

最近、注目が集まっている脳内物質・オキシトシン。ストレス中枢を鎮静化し、ストレス物質のコルチゾールの分泌を抑制する働きがありますが、分泌を促すには「触れる」ことが効果的です。身体心理学の視点からオキシトシンやスキンシップについて研究する桜美林大学・山口創先生に、詳しくお話をうかがいます。

■親しい人との絆を深め、ストレスを緩和するオキシトシン

まずはオキシトシンの作用について説明しましょう。
オキシトシンは脳(心)への作用と、身体への作用に分けることができます。脳(心)への作用としては、他者への信頼感を増大させる、親密な関係を築くなど。赤ちゃんと母親の絆や夫婦の信頼を深めてくれます。一方、身体はどうでしょうか。元来出産に関わるホルモンとして知られていたように、子宮の収縮を促して陣痛を促進させるほか、ストレスを受けると分泌が促され、速くなってしまっている心拍を落ち着かせたり、一時的に跳ね上がった血圧を下げる作用が知られています。

オキシトシンは人工的に合成することが可能で、医療現場などで活用されていますが、本来は脳の視床下部で作られて作用する、天然のストレス緩和物質なのです。


◾️マッサージを受ける人より、施術者の方がオキシトシンがより分泌される理由とは?

オキシトシンが作られるためには、“ある刺激”を心地よく感じることが必要です。前述したようにオキシトシンには他者との関係を強める働きがあるので、その刺激を一人で感じるよりも、他者と一緒に楽しむ方が大量に分泌されます。では、その“ある刺激”とは? ハグやマッサージなどのスキンシップです [1]。

私の研究で、初対面の二人にペアになってもらい、一方が相手の背中と肩にマッサージしました。そしてマッサージの前後で両者のオキシトシン濃度を測定したところ、マッサージを受けた人のオキシトシン濃度は、およそ1ポイントと少し上昇しただけでしたが、驚いたのはマッサージをした人のオキシトシン濃度がおよそ5ポイントと急上昇したことです[2]。これはマッサージの施術者は、「この辺りが凝っているなあ」などと相手のことを「思いやって」施術しているからだと思われます。困っている人に募金をするといった利他的な行動でもオキシトシンの分泌が促されるという研究結果もありますが、同じことですね[3]。

<マッサージによるオキシトシンの変化>


◾️ASD児へのオキシトシン治療で、症状が改善

前述した、人工的に合成したオキシトシンの活用例を一つご紹介します。
最近、発達障害の子どもが増えています。なかでも自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の子どもは100人に1人ともいわれる障害です。ASD児は他者の心が理解できなかったり、繰り返し同じ行動をしたり、言葉を話すことができないなどの症状を抱えています。

これまで様々な研究がされてきましたが、脳の研究によると、ASD児は健常児と比べてオキシトシン濃度が低いことがわかっており、そこから社会性の問題が起こってくるようです[4]。そこで人工オキシトシンを鼻腔から吸って脳内に入れると、他者の顔写真からその人の気持ちが読み取れるようになったり、言葉が少し話せるようになるといった効果があることが世界中の研究でわかってきています。しかし、人工オキシトシンを使い続けていると、自分でオキシトシンを生成する力が落ちてくるという結果もあり[5]、だからこそ、マッサージなどのタッチケアでASD児の脳でオキシトシンを作る能力を高めてあげた方が良く、実際、ASD児へのタッチでオキシトシン分泌が促されることが実証されています。[6]。


■ASD児の症状を緩和し、家族のストレスも軽減

ASD児は、手や顔に触れられるのを嫌がります。なぜなら、手は相手を叩く、口は相手に噛みつくといったように、相手を攻撃するために使われることがある部位に触れられると、反射的に攻撃をしやすくなってしまうからです。そのため手や顔は避けて、肩や足の裏などを圧するような刺激が良いようです。

ASDをはじめとするハンディキャップは、障害を抱えた本人だけでなく、身近で寄り添う家族のケアも大切です。先ほどお話したように、タッチケアは施術する側のオキシトシン分泌も促します。このように、お金がかからず誰でも実践でき、家族のストレスも軽減する方法をもっと広めていきたいと考えています。



(引用)
[1].Morhenn, V. et al., (2012) Massage increases oxytocin and reduces adrenocorticotropin hormone in humans. Altern Ther Health Med:18,11-8.
[2]山口創・秋吉美千代 (2015)  タッチングによる施術者への生理・心理的効果­オキシトシンによる検討 日本健康心理学会大会発表論文集
[3]Brown, S. L., Brown, R. M., House, J. S., & Smith, D. M. (2008). Coping with spousal loss: Potential buffering effects of self-reported helping behavior. Personality and Social Psychology Bulletin, 34, 849–861.
[4]Jin D, Liu HX, Hirai H, Torashima T, Nagai T, et al. (2007) CD38 is critical for social behaviour by regulating oxytocin secretion. Nature,446,41-45.
[5]Bales, K.L. et al. (2013) Chronic Intranasal Oxytocin Causes Long-term Impairments in Partner Preference Formation in Male Prairie Voles. Biol Psychiatry, 74, 180-188.
[6]堀越詩帆 (2016)  自閉症児スペクトラム障害児に対するタッチングの効果について -内因性オキシトシンに着目して- 平成28年度桜美林大学大学院心理学研究科修士論文


肌は第三の脳である【肌からストレスオフを考える①】


執筆・監修:山口創